LDCレポート【2月号】
■今、再び、「社員食堂」が注目され始めた理由(わけ)。
リモートワークが普及し、オフィスに人が集まらないことで大きな影響を受けたのが「社員食堂(以下、社食)」でした。コロナ禍によるオフィス自体の縮小・売却に伴い、社食のような福利厚生施設の減少が加速。経営の足かせになるとさえ言われ、“社食不要論”が噴き出しました。しかし、ある調査によると、リモートワークを導入した企業の社員の半数以上が“社員間のコミュニケーション不足”をデメリットとして挙げています。社内においてコミュニケーションの量が減り希薄になると、離職率が高まり生産性の低下を招く恐れがあるということが指摘されています。この状況を、看過できない重要な問題と捉え、コミュニケーション不足を解消する効果的な解決策の一つとして、今、企業の間で再び「社食」を整備する動きが広がっています。
“安い・速い・外出しなくてよい”というのが、これまでの社食の評価点でした。働き方が変わってしまった今、その評価基準も変わり、単に空腹を満たすための場から、コミュニケーションを促す場としての社食に注目が集まるようになったのです。
[NEC]では社食を“会社の枠を超え、食を通してイノベーションを紡ぎだす場所”と位置付け、名前も「FIELD」と命名。一つの空間の中で多様なアクティビティーを叶えるゾーニングで構成されているのが特徴。
[丸紅]の社食「〇Café(マルカフェ)」のコンセプトは“日本一おいしい社員食堂”で、“コミュニケーション・リラックス・健康支援”を促進する場として位置付けられています。[ヤフー]の社食は、仕事を“山”と捉え、レストランが「BASE」、カフェが「CAMP」。朝・昼・夕食、一日に3000人程度に利用されています。[エイベックス]の社食は、オフィス17階にアメリカ西海岸をイメージした造り。“ホテルラウンジ”“広場”など6つのエリアで構成。[ファンケル]の社食のテーマは、“社員の美と健康を育む”。“タニタメニュー”と“ファンケルメニュー”の2種類あり、料金は各350円。青汁が無料で飲めます。
ほかにも、環境に配慮した食材を積極的に使用し、『SDGs社食アワード 企業賞』を受賞した[セガサミーホールディングス]や、“日本一、野菜のおいしい社内カフェ”を掲げた[ルネサス エレクトロニクス]。食べ終えてトレーを返却すると摂取したカロリーや食塩量がディスプレイに表示。健康経営の一環としての役割を担う[味の素]の社食など。
企業イメージのシンボリックな役割を担い、離職率低下や企業エンゲージメントの向上に大きく貢献する社食。もちろん、社食があれば必ず社員の満足度や生産性が上がるという単純なことではないでしょうが、“給料”よりも“働きやすさ”や“福利厚生”に重きを置く若い世代にとっては、進化型社食の果たす役割はとても大きいと思われます。
※参考:
NEC https://jpn.nec.com/
丸紅 https://www.marubeni.com/jp/
ヤフー https://about.yahoo.co.jp/
エイベックス https://avex.com/jp/ja/
ファンケル https://www.fancl.co.jp/
セガサミーホールディングス https://www.segasammy.co.jp/ja/
ルネサス エレクトロニクス https://www.renesas.com/jp/ja/ 味の素 https://www.ajinomoto.co.jp/
■実店舗にはない魅力。いつでも、どこからでも、オンラインで「クレーンゲーム」。
コロナ禍の影響で大打撃を受けたゲームセンター(以下、ゲーセン)にあって、ひときわ盛り上がっているのが、ゲーセンの稼ぎ頭でもある“クレーンゲーム”。中でも、最近のトレンドが、「オンラインクレーンゲーム(以下、オンクレ)」です。スマホアプリやWebブラウザーから、ゲーム機に設置されたカメラ映像を見ながら画面上のボタンでクレーンを遠隔操作して景品をゲット。その景品は後日、自宅まで配送されるという仕組み。24時間、どこからでも参加でき、基本的にダウンロード(会員登録)は無料。各サービスのポイント(ゲーム内通貨)を購入してプレイします。需要の高まりを受け、IT企業など異業種からの参入が相次ぎ、2020年には『オンラインクレーンゲーム協会』が発足、50社近くが名を連ねています(2023年時点)。
[DMM.com](東京)は、「DMMオンクレ」を2022年にスタート。埼玉に1500坪の倉庫を作り、約1000台のクレーンゲーム機を設置。3交代制でスタッフが常駐。ユーザーが一定回数以上プレイすると、スタッフがあと一押しで取れる位置に景品を移動してくれる“アシストゲージ”機能を業界で初めて搭載。プレイ料金(アプリ)は1ゲーム、150~200円(税込)。主なユーザーは20~40代の男女で、特ににぎわう時間帯は平日23時~午前2時。約3000種類の景品をそろえ、フィギュア、ぬいぐるみ、アニメグッズといった定番ものに加え、最近では主婦層のユーザーが増えたこともあり、冷凍総菜やティッシュペーパーなど、日用品や食品も人気に。
ゲーセン大手の[タイトー](東京)は、2017年に「タイトーオンラインクレーン」、通称“タイクレ”を始めました。2000種類以上の景品をとりそろえ、プレイ料は50~980円。制限時間80秒以内なら、何度でもアームを動かしてやり直しできるのが好評。また、スタッフが景品を取りやすい位置へ移動する、DMMと同様のアシストサービスも。2019年に62万人だった会員数は、2023年に332万人まで拡大しています。
最近のクレーンゲーム業界の動きとして、景品の大型化が挙げられます。背景にあるのは、2022年に施行された規制緩和で、景品価格の上限が800円から1000円に引き上げられたことにあります。かけられる予算が増えたことで素材にこだわることが可能になり、クオリティーの向上がオンクレ人気を押し上げている要因ともなっています。
運営する側にとっては、高い収益性が魅力のオンクレ市場。今や、国内の市場規模は200億円ともいわれ、リアルなクレーンゲームの市場規模(約2200億円)には遠く及ばないものの、成長の勢いに衰えは見えず、アミューズメント業界から熱視線が送られています。
※参考:
(一社)日本アミューズメント産業協会 https://jaia.jp/
(一社)オンラインクレーンゲーム協会 https://www.atpress.ne.jp/
DMM.com https://www.dmm.com/
タイトー https://www.taito-olcg.com/ 日経МJ(2023年10月2日付)
■国際的にも高評価。「地チーズ」普及に、政府もアシスト。
国産のナチュラルチーズの生産が増加しており、2022年度には、ここ10年で最多を記録(農水省)。国内チーズ市場の8割を占める輸入品が、国際相場の上昇や円安などの影響で輸入量が大幅に減り、価格も高騰して売り上げが厳しい状況に陥っているなか、国内メーカーは、高品質で価格が安定している国産チーズ市場拡大の好機と捉え、商品開発と販促を加速させ、攻勢をかけています。
背景には“余剰生乳”の問題が横たわります。牛乳となる以外の余った生乳の多くは、脱脂粉乳やバターなどに加工して需給調整を行っていますが、このやり方にももはや限界が。そこで今、その受け皿となるべくチーズの生産拡大が喫緊の課題となっているのです。国は、2022年度に45万トンだったチーズ向け生乳の量を、49~55万トンへ引き上げる目標を掲げると共に、2024年度に国産チーズによる需給改善対策として22億円の予算を計上。生産者がチーズ用の生乳を乳業メーカーへ販売する際に助成し、コスト高による価格転嫁をできるだけ抑えようという後押し策です。
官民を挙げて市場の拡大が進められている国産チーズは今、全国で“ご当地チーズ(地チーズ)”の工房が急増し、ここ10年で2倍に増えています。各地の気候・風土に育まれた原料や素材を使った、個性豊かで質の高い商品が続々と誕生し、注目されています。
2023年10月、東京で行われた『ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト』。全国109の工房から248点が出品。その中からグランプリを獲得したのが、北海道の[美瑛放牧酪農場](美瑛ファーム)の「フロマージュ・ド・美瑛」でした。本場の製造環境に近づけようと、チーズ釜もフランスから取り寄せ、熟成庫の天井や壁には“美瑛軟石”を、棚には地元産のトドマツを使用して美瑛の風土を最大限に生かす工夫を。4種類の牛(全120頭)の生乳をブレンドさせることで、より複雑で深みのある味わいにたどり着きました。
ほかにも、日本独自の乳酸菌と酵母をグラム単位で調合した日本オリジナルのチーズ作りに取り組んでいる、千葉県・大多喜町の[チーズ工房 千(sen)]。
自然放牧で育てた牛や山羊のミルクを使用したチーズ作りを行う[三良坂(みらさか)フロマージュ](広島県・三次)など、全国約370の工房(2023年10月時点)から、インターネットなどを通じ、“地チーズ”として販売されています。また、[ホクレン](札幌)では毎年、『北海道地チーズ博』を都内で開催。チーズ工房やメーカーなど46事業者、約300種の地チーズが集結。6回目となる2024年は、2月8日~13日まで、表参道ヒルズでの開催が予定されています。また、[楽天]では昨年、11月11日の“チーズの日”に向け、全国47都道府県で製造された地チーズを販売する物産展「はじめよう、ジャパニーズチーズ」が、楽天市場で1カ月にわたって開催されました。
需要の伸びしろがある地チーズの消費拡大が、輸入品からのシェア奪還の鍵を握っていそうです。
※参考:
農林水産省 https://www.maff.go.jp/
(一社)中央酪農会議 https://www.dairy.co.jp/
(NPO法人)チーズプロフェッショナル協会 https://www.cheese-professional.com/
(独立行政法人)農畜産業振興機構 https://www.alic.go.jp/
美瑛ファーム https://biei-farm.co.jp/
チーズ工房 千 https://fromage-sen.com/
三良坂フロマージュ https://m-fromage.com/
ホクレン農業協同組合連合会 https://www.hokuren.or.jp/
楽天グループ https://corp.rakuten.co.jp/
日経МJ(2023年10月23日付)