LDCレポート【12月号】
■“企業努力”が“コスト上昇”に負けそうな、「100円ショップ」の岐路。
暮らしに関わる様々なモノの値上げラッシュが続くなか、デフレを追い風に順調に市場を拡大してきた「100円ショップ」が岐路に立っています。言うまでもなくその原因は、原材料、燃料、輸送といった製造コストの大幅な上昇に加えて、急激な円安の進行や国内外の人件費の高騰、さらにロシアによるウクライナ侵攻という非常事態の勃発も拍車。このまま値上げ基調の消費環境が続くと、商品の多くを輸入に頼り、定価を簡単に上げ下げできない「100円ショップ」にとっては存亡の危機に直面しているといっても過言ではありません。
日本で「100円ショップ」の草分け的存在の[ダイソー](広島)が誕生したのが1977年のことでした。追って10年後の1987年に[セリア](岐阜)が、1993年には[キャンドゥ](東京)が続き、大手3社が揃います。それにしても、30~40年もの間、値段が変わらないというのは“特殊な状況”であり、もはや“100均”を維持しながら収益を拡大していくというビジネスモデルそのものが限界を迎えているのかもしれません。
各社は、生き残りをかけた秘策を繰り出して、当面の“敵”であるコスト高と闘います。
まず着手したのが、容量の見直し。減量をしつつ、100円を維持する戦略です。“綿棒”を例にとると、ダイソーでは350本だったものを220本に、キャンドゥでは300本を250本に。電池は、両社とも8個入りから6個入りに変更の上、100円で販売。
その一方で、対策の二つ目として各社が挑戦的に取り組んでいるのが、200円、300円、500円といった、100均の掟を破る、高価格帯商品の投入です。
ダイソーでは高額商品へのシフトが急ピッチで進み、4月に東京・銀座に300~500円の商品が中心の「スタンダードプロダクツ」や300円ショップ「スリーピー」といった新業態をオープン。キャンドゥも高価格路線にカジを切り、今春から新たに600~1300円の商品を展開。
こうした100円離れのシフトは、いうなれば“100円ショップ以上 無印良品未満”市場への挑戦となり、そこは、これまでとは異なる強大な敵が立ちはだかる激戦区となることが予想されます。
そんな状況のなか、業界2位のセリアだけが、唯一、100均を貫いています。高価格商品との混合販売はしない経営は堅調で、売上高、営業利益、経常利益ともに前年を上回っています。“全品100円”にこだわることがセリアの強みとなり、他社との差別化に成功したと思われます。
100円という価格の魅力を維持するか、コスト高を商品の魅力向上に吸収して“脱・100円”で勝負するか-----ビジネスモデルの転換を次なる成長へのチャンスと捉え、各社とも価格帯の多様化を巡っての試行錯誤は続きそうです。
参考:
大創産業 https://www.daiso-sangyo.co.jp/
セリア https://www.seria-group.com/
■行き場を失った小銭はこちらへ。「逆両替機」で、思わぬ集客効果。
スーパーなどで、店員を介さずに支払いを済ませる“セルフレジ”の導入が進んでいますが、そこに、ある問題が------想定以上の長蛇の列ができてしまい“セルフレジ渋滞”が発生するようになったのです。原因は、支払いの際に大量の小銭で支払おうとする客が後を絶たないため。投入する硬貨の枚数が多すぎて機械が読み取り不能になったり、目詰まりして機械の復旧まで待たなければいけないケースまで。
こういった現象を引き起こした要因は、意識的(小銭貯金など)にせよ、無意識的(買い物時の釣銭など)にせよ、たまった大量の硬貨の行き場が失われたことにあります。これまでは銀行や郵便局へ持ち込めば、無料でお札に“逆両替”してくれましたが、最近では、一定枚数を超えた硬貨の逆両替には手数料がかかることに。銀行によってその額には違いがありますが、例えば「三菱UFJ銀行」の窓口で逆両替しようとすると、硬貨100枚までは無料ですが、101~500枚では550円、501~1000枚では1100円、1001枚からは1650円、以降500枚ごとに550円の手数料がかかります。
今年1月には、枚数に制限なく逆両替の手数料が無料だった「郵便局(ゆうちょ銀行)」も有料化に踏み切りました。窓口で、50枚まで無料、51~100枚は550円、101~500枚は825円と設定。
そこで今、注目を集めているのが、米国生まれの逆両替機「コインスター・マシン」(日本代理店:アーキスカイ)です。自販機ほどの大きさの機械を小売店やスーパー店内に設置。硬貨を投入すると(最大5万円まで)、毎分600枚超という高速で枚数と金額を計算し、手数料(投入金額の9.9%)を差し引いた額が提示され、金額分の“引換券”が発行されます。この券は、機械が設置してある店舗での商品購入に使えるほか、紙幣に交換もできる仕組み。銀行や郵便局が枚数ベースで手数料を設定しているのに対し、この機械は金額ベースで設定されているのが特徴。例えば“10円玉100枚”の場合で比べてみると、「ゆうちょ銀行」の窓口では550円なのに対し、「コインスター」なら99円となります。
2022年6月時点で、全国に274台を設置。土日も利用でき、買い物ついでに財布にたまった小銭を逆両替したいと願うユーザーにとっては、なんとも魅力的なサービス。設置店舗側にとっても、客を店頭に引きつけるツールとしての効果が期待できます。
日本は、硬貨の流通高が4兆円を超える“硬貨大国”。いくらキャッシュレス決済が浸透したとしても、たまった硬貨を逆両替するというニーズは、当分なくなりそうもありません。
参考:
アーキスカイ https://archisky.co.jp/
日経МJ(2022年8月5日付)
キャンドゥ https://www.cando-web.co.jp/
日経МJ(2022年6月1日付)
■アフターコロナのお肌のために。“おうち美容”で人気上昇、「家庭用美顔器」。
一部の白物家電を除いて縮小傾向が続いている家電業界において、次なる有望分野と期待されているのが“美容家電”。中でも、コロナ禍で“おうち美容”への関心が高まり、自宅にいながら本格的な肌のケアができる「美顔器」の需要が急増しています。
肌を若々しく保ち、肌質の改善を行うのが美顔器の役割。解決したい肌悩みによって美顔器は、機能、形状から使用方法、頻度など、実に様々なモデル(機種)があり、それぞれ得られる効果に違いがあります。
毛穴の黒ずみが気になるなら“ウォーターピーリング”タイプ。乾燥肌対策には“フェイススチーマー”タイプ。
“イオン導入器”タイプは、微弱な電流によって美容成分をイオン化させ、肌の奥深くまで届かせてスキンケアの浸透をアップ。たるみやハリの改善には、リフトケア効果のある“RF(ラジオ波)”や“EMS(電気刺激)”タイプを。
血行を促進してリフトアップや小顔効果が望める“美顔ローラー”タイプ。さらに、
肌のシミにアプローチしたい場合は、“レーザー美顔器”など。
化粧品がおよそ2兆円市場なのに対し、美容機器市場は約2000億円。けん引するのは、国産の2大メーカー、[パナソニック]と[ヤーマン]。
パナソニックは、美容家電の高級ブランド「アドバンスドライン」を新設し、その第一弾として、高出力のLEDで古い角質を落とす美顔器を発売。価格は、従来品より2~3万円ほど高額の7万6000円前後。
プロ向けの美容機器も製造しているヤーマンは、家庭用美顔器でも好調。特に、中国市場でRF美顔器が大ブームとなり、高級美容家電のNO.1ブランドとして知られています。
美顔器市場はこれまで、家電メーカーによる製品が主流でしたが、最近では化粧品メーカーからのアプローチの動きも目立ちます。昨春には、[資生堂]がヤーマンとの合弁会社[エフェクティム]を設立。同名の、美顔器と美容液の新ブランドを日本と中国で発売(美顔器/7万5000円)。
[花王]は、高性能噴射機器で化粧液を極細繊維として肌に噴射し、肌上に1枚の極薄膜をつくる独自の技術をパナソニックと共同開発。美顔器「バイオミメシス ヴェール」として発売(5万円)するほか、レンタルサービス(30泊31日/6980円)も行っています。
某化粧品メーカーの調査によると、20~59歳の女性のうち、美顔器を所有しているのはまだ3割ほど。スキンケアはマメにやっても、美顔器はまだ必需品にはなり得ていないようです。主な使用理由としては、“化粧品の美容効果を上げたいから”“サロンに行くより経済的だから”“エステサロンに行く代わりとして”など。
美顔器はダイエット用具と並んで、いざ買ったものの、使わなくなったという声をよく聞く美容器具のひとつ。美顔器メーカーにとって今後の普及のカギは、どうやら“習慣化”へのアプローチも重要なファククターになりそうです。
参考:
パナソニック https://www.panasonic.com/jp/
ヤーマン https://www.ya-man.co.jp/
資生堂 https://www.shiseido.co.jp/
花王 https://www.kao.com/jp/
日経МJ(2022年8月7日付)