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お金の情報・まめ知識 2022/4/1

LDCレポート【4月号】

“もったいない”が、「ふぞろい食材」を蘇らせる。

正規品より、小さすぎる、大きすぎる、形がいびつ、色ムラがある、外皮やパッケージにキズがある、等々。味や品質に問題があるわけではなく、見た目の悪さだけの理由で売り物にならず廃棄されてきた“ふぞろい(規格外)の食材たち”。日本で、まだ食べられるのに捨てられる、いわゆる“フードロス”の量は年間約600万トン、野菜に限れば全生産量の3分の1にものぼります(農水省)。

 こうした規格外れの食材に、今、さまざまな角度から再生の手がさしのべられています。

 食材宅配大手の[オイシックス・ラ・大地]は、フードロス削減強化プロジェクトの一環として、昨秋「Oisix もったいないマーケット」を新設。野菜をはじめ、ふぞろいがむしろ使いやすいと好評の“辛子明太子”やプロシュートの切り落としなど、契約した4000以上の生産者からバイヤーが選りすぐった高品質の食材と、その食材を活用したオリジナルミールキットを発売。また、同社が運営する食材宅配サービス[らでぃっしゅぼーや]でも、出荷規格に満たない野菜・水産品・畜産品などを1BOXにした「ふぞろいRadish」を昨春からスタート。

 規格外の食材を使うなんてブランドにキズがつくと、敬遠されるかと思われていた高級ホテルでも、むしろ企業価値を高めると、積極的に取り入れる動きが。

 [パレスホテル東京]では、昨秋から、農家で廃棄される予定だったブロッコリーやパプリカなどのロス食材を使ってホテルのシェフが調理。ホテルクオリティーで、楽しみながらフードロス削減に貢献できると、新しい体験価値の提供に期待されています。

 東京・銀座の[アルマーニ/リストランテ]では、コロナ禍で出荷先を失った高級食材を主役とした特別なコースメニュー「LOSS FOOD MENU」(全7皿)を提供。

 こうした取り組みを支え、ロス食材の活用を提案、プロデュースしているのが[フードロスバンク](東京)です。2020年に設立後、高級ホテルや有名レストランなど、多くのグローバル企業とコラボレーションしてロス食材を表舞台に引き上げることに尽力しています。

 メロンの網目がきれいじゃない、というだけの理由でハジかれると嘆く生産現場。商品にもサービスにも“完璧”を求める傾向の強い日本の消費者ですが、反面、SDGsなどという言葉が生まれるずっと前から、日本には“もったいない精神”が生活や文化に宿っています。

“フードロス削減に向けて何かしたいけど、何をすればいいかわからない”という消費者心理の受け皿に、ふぞろい食材の活用は合致しているといえます。

※参考:

農林水産省          https://www.maff.go.jp/

オイシックス・ラ・大地    https://www.oisixradaichi.co.jp/

らでぃっしゅぼーや      https://www.radishbo-ya.co.jp/

パレスホテル東京      https://www.palacehoteltokyo.com/

アルマーニ/リストランテ   https://www.armani.com/ja-jp/

フードロスバンク       https://www.foodlossbank.com/

日経МJ(2021年11月26日付)

 

■すぐそばのSDGs。優秀な循環型素材「段ボール」に、改めて注目。

  95%を超える驚異の回収率を誇る、日本の「段ボール」。回収後は再び段ボールとして再利用できることから、“リサイクルの優等生”と呼ばれています。加えて、有害な化学物質を使用せずに製造できることで環境面からも見直され、現代社会の中でじわじわと存在価値を高めています。

 最近では、梱包材としての“運ぶ”機能にとどまらず、新たな機能を備えた“進化系段ボール”が相次いで登場しています。

 “最強の段ボール”と胸を張るのは、[秦永(しんえい)ダンボール](伊勢原市)が開発した「シリカダンボール」。ガラスの原料でもあるシリカを表面と内部にコーティングすることで、水に強いだけでなく(従来の300倍の耐水性)、火にも強く(1300℃で炙っても燃えない)、強度も従来の5倍と、まさに“究極の段ボール”。同社では、この強靭な素材を使って「防災用帽子」を開発・販売(税込2728円)。折り紙工学の技術を応用して実現したヘルメット並みの頑丈さながら、重さわずか150g。折りたたんでカバンに入るほか、非常時には枕としても使えます。2016年の発売以来、大きな反響を呼び、学校、病院、老人ホームなどからの注文が相次いでいるとのこと。

 組み立て型のドーム型段ボールテントを開発・販売しているのは、[東洋製罐グループホールディングス](東京)。商品名は「DAN DAN DOME」(15~20万円)。降雨に耐えうる屋外用モデルは、高さ3m、幅・奥行き3.6m、4畳半ほどの広さで大人4~5人が過ごせます。組み立てに工具類は不要。キャンプ場やイベント会場、被災地の仮設住居などの利用を想定しています。

 東京五輪の選手村に導入された[エアウィーヴ]の「段ボールベッド」も話題となりました。強化段ボールを使用し、体重200kgまでOK。パラリンピックと併せ、計2万6000台用意されたベッドは、大会終了後、自治体などに寄贈。基本的に販売はしていませんが、一部、“ふるさと納税”の返礼品として利用されています。

 ネット通販や宅配需要の増加に伴い、段ボール業界は、順調かつ安定した拡大が期待される一方で、課題も横たわります。それは、高騰を続けるコストです。まず、段ボールの原材料となる古紙不足による高騰。次に段ボール製造に必要なガスや重油の価格高騰。さらに、ネット通販の取引増による運送会社の負担増に直結する運送費の高騰。こうした当面のコスト増との闘いに加え、相次ぐ新規参入や中国の台頭など、段ボールを取り巻く環境はますます激しさを帯びています。

SDGsを追い風に、多くの可能性をはらみ、“次世代の素材”とまで期待される段ボールの今後に注目です。

※参考:

全国段ボール工業組合連合会    https://zendanren.or.jp/

秦永ダンボール              https://www.d-sinei.com/

東洋製罐グループホールディングス https://www.tskg-hd.com/

エアウィーヴ                     https://airweave.jp/

日経МJ(2021年12月24日付)

 

これからのカタチ。“見て・試す”だけの「売らない店」、大盛況。

  毎年、右肩上がりの伸びと好調が続く国内EC(電子商取引)市場。中でも、アパレルの伸びは、前年比36.5%増(2021年/総務省)と、大きな需要のあることがうかがえます。

 しかし、そこにはネット通販ならではの弱点が存在します。商品を触ったり試着したりというリアルな体験ができないことです。特に、自社で企画・製造した商品を自社サイトで直接販売する“D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)”ブランドにとっては大きな課題となっていました。

そこを補うために出現したのが、消費者がお試しできる場の提供です。モノを売ることを目的としない、見て・試すだけの「売らない店」が急増しています。

 象徴的な体験型店舗が、2020年、日本に上陸した米シリコンバレー発祥(2015年)の[b8ta(ベータ)]。一企業、一ブランドのショールームはこれまで数多く存在しましたが、ベータは大手企業からスタートアップまで、ブランドを越えて横断的に幅広い分野の最新製品を一堂に集め、実際に触って試すことができる一大ショールーム空間です。店内には、雑貨やコスメ、アパレル、家電などのアイテムが“区画”(約60cm×40cm)ごとに並びます。価格表示やポップの類は一切なく、レジもありません。出店企業は、この区画を月30万円で契約(契約期間は6カ月から)。国内では昨年、有楽町、新宿、渋谷の3カ所にオープンしました。

 ショールームに徹し商品は一切売らない、店頭は消費者データを得る場----大型商業施設としていち早くこの英断を下したのが、[マルイ]でした。話題のD2Cブランドをマルイに誘致し、テナントとして入ってもらうという方針を打ち出したのです。首都圏を中心に23店舗を展開するマルイは、2026年までに売り場面積の約3割をこの“体験型店舗”に転換する計画。

 [京王電鉄]が展開する駅ビル「キラリナ京王吉祥寺」では、複数のD2Cブランドによるショールーミングストア「INSEL STORE(インゼルストア)」が昨年6月にオープン。ECサイトでしか購入できないD2Cブランドの商品を、手に取り、素材を確かめ、試着してECサイトで購入。

 [大丸東京店]でもモノを売らない売り場が登場。昨秋オープンした体験スペース「明日見世(asumise)」で、約20社の婦人服D2Cブランドが出店(3カ月ごとに入れ替え)。商品に付いたQRコードを読み取って出店先のサイトから購入します。

 ECで最もショールーミングの要望が高いのが、食品。ネットで見ても実際にどんな味なのかがわからない、という声に応え、昨年“試食専門店”が登場。[メグダイ](東京)では、全国約30種類の食品を陳列。入口には、“購入してもらうことを目的としておりません”との看板が。気になった商品の“試食カード”をカウンターに持っていき、順番に試食を受け取って店内で食べるというシステム。出品事業者は、毎月、出品手数料を納めて展示します。

 近頃の「売らない店」の隆盛は、小規模事業者が大半を占め、消費者の認知度アップが最優先課題であるD2Cブランドにとっては願ってもない活路になっているといえます。

どうやら、近い将来の店舗のカタチは、ネットかリアルかという選択ではなく、ネットもリアルも、消費動向による有効な使い分けが求められるようです。

※参考:

総務省              https://www.soumu.go.jp/

ベータ・ジャパン        https://b8ta.jp/

丸井グループ          https://www.0101maruigroup.co.jp/

キラリナ京王吉祥寺      http://www.kirarinakeiokichijoji.jp/

大丸東京店            https://www.daimaru.co.jp/tokyo/

メグダイ               https://megdai.com/

朝日新聞(2021年8月18日付)

日経МJ(2021年8月20日付/同10月8日付/同12月8日付/同12月15日付)