LDCレポート【11月号】
■「卵」市場に異変。“物価の優等生”の悩みは尽きません。
今年7月、店頭価格の変動が少ないことから“物価の優等生”と呼ばれている「鶏卵(以下、卵)」の卸値(Mサイズ・1キロ)が、7年半ぶりの高値(260円)を付けたことがニュースになりました。
もともと供給過多傾向で、この5年間、下落を続けていた卵相場が、昨春のコロナ禍でさらに値下がりが加速。市場の5割を占める、外食やホテル、菓子といった業務用需要が急減したことで、今年初めには120円まで落ち込んでいました。
ではなぜ、そんな最安値を付けていた卵が、一時的とはいえ、記録的高値を付けることになったのでしょう。
一つは、“巣ごもり”による内食(うちしょく)需要の増加です。2人以上世帯の卵の1カ月当たりの支出金額が、2019年に764円だったのが、2020年には845円にアップ(総務省/家計調査)。
もう一つは、2020年11月から全国で猛威を振るった“鳥インフルエンザ”のまん延です。18県52カ所にわたり、発生件数が過去最多なら、処分された“採卵鶏”の数も最多という過去にない異常な事態に。
“新型コロナ”と“鳥インフル”という二つのウイルスが時間差で襲いかかったことで、今年に入って供給が滞りはじめ、取引相場にも影響が出て底値の倍以上の高値を付けるに至りました。それでも当初は、落ち込んでいる業務用分で家庭用需要を補填すれば、市場全体としては大きな不足にはならないだろうと思われていました。しかし現実は、双方が相殺されることなく、需給のバランスが崩れて相場の上昇が顕著になってしまったというのが実情です。
近年は、“プロテイン(タンパク質)ブーム”に乗って卵の消費量も大幅増。
その一方で生産者には、“物価の優等生”たる期待に応えるための“責務”が重くのしかかります。年々上昇するコストを吸収しながらの安定供給が課せられるため、生産者の多くは経営の大規模化を図り、増産体制の強化にカジを切ります。担い手不足などで養鶏農家の数が大きく減少しているのに、1戸当たりの飼養羽数は10年前の1.5倍強という数字が物語るように、大型施設による効率生産はいっそう進みます。しかし、大規模化は、メリットも大きい反面、地震・台風などの自然災害や今回のような疫病に見舞われたときの被害も甚大となり、急速な供給不足を招くリスクを伴います。
鳥インフルで出荷量が減る一方、コロナで消費量が増える----この、揺れ動く卵の相場環境を前に、コスト上昇分を店頭価格に乗せられない内情を抱える生産者の苦悩は続きます。“優等生は、そろそろ卒業したい”というのが、関係者の正直な思いなのかもしれません。
※参考:
総務省 https://www.soumu.go.jp/
農林水産省 https://www.maff.go.jp/
JA全農たまご https://www.jz-tamago.co.jp/
日経МJ(2021年6月25日付/同7月23日付)
■毎日お得な「サブスク」で、鉄道離れにブレーキを。
コロナの影響で鉄道の利用客、なかでも定期券利用の落ち込みは大きく、収益に大打撃。軒並み赤字を計上した鉄道各社は、なんとかこの苦境を乗り切ろうと模索しています。
その一つが、「サブスクリプション(定額課金)」(以下、サブスク)サービスの導入です。
[小田急]は3月から、駅構内だけでなく、周辺の飲食・物販店でも使える「EMot(エモット)パスポート」というサブスクチケットを販売。スマホのアプリから購入する電子チケットで、定期券保有の有無にかかわらず使えるのが特徴。チケット1枚で1回500円相当のサービスが受けられ、“回数券タイプ(1回券=500円、10回券=3500円)”と、30日間有効の“定額タイプ(9500円)”から選べます。
[東急]は、定期券を持つ人対象のサブスクサービス「TuyTuy(ツイツイ)」を5月から始めました。価格は月額500円。傘(通常24時間70円)やモバイルバッテリー(通常一日330円)などのシェアリングサービスが無料になるほか、シェアサイクル(通常10分110円)も1カ月5回30分まで無料で利用できます。
サブスクで特急利用を促進しようという試みも。
[JR西日本]は、“地方移住+都市への通勤”の運賃サブスクサービス「おためし地方暮らし」を実施。指定された滞在先によって、月額3000円と7000円の2タイプがあり、滞在プランは、1~3カ月の短期と6~10カ月の長期の2パターン。実施期間は、今年6月から来年3月まで。
[JR東日本]が7月から実験的に始めたサブスクサービスは、「JREパスポート」。Suicaの通勤定期券保有者を対象に(通学定期は対象外)、上野・秋葉原・八王子の3駅構内での飲食や、同社が展開するシェアオフィスなどでお得に利用できるというもので、例えば、カフェは月額2500円で通常300円のコーヒーが一日3回まで無料。駅そばなら月額1000円でトッピング1品が無料(一日1回)、など。
[東京メトロ]は、月額2000円で、休日に乗車した分を翌々月に全額ポイントで還元する「休日メトロ放題」のサブスクサービスを、2022年春から実施予定。
ほかにも、大小さまざまな形態で鉄道サブスクのトライアル(実証実験)が実施されています。
サブスクは、企画の手間がかかるだけで、大きな追加投資は不要。コロナ禍であえぐ鉄道においては、利用者の生活に寄り添った“サブスク戦略”で、駅離れ、鉄道離れを食い止め、新たな価値を高めて収益確保につなげたいところ。
“稼ぐ駅”の実現を目指して、サブスクへの期待はますます高まりそうです。
※参考:
小田急電鉄 https://www.odakyu.jp/
東急電鉄 https://www.tokyu.co.jp/
JR西日本 https://www.westjr.co.jp/
JR東日本 https://www.jreast.co.jp/
東京メトロ https://www.tokyometro.jp/
日経МJ(2021年4月5日付/同6月11日付/同7月14日付)
■酔っ払うのはイヤだけど、ノンアルじゃ物足りない-----すき間に登場、「微アル」。
20~60代の人口が約8000万人。そのうち2000万人が日常的に酒をたしなみ、半数の4000万人の人は、普段、酒を口にしない人たちとのことで(アサヒビール調べ)、若年層ほど酒離れが顕著(厚労省)。“アルハラ(アルコールハラスメント)”が社会問題化される昨今、若い世代には、“人前で酔っ払うのはカッコ悪い”“飲みたくないのに付き合いで飲むのは時間の無駄”という感覚を持つ人が少なくないようです。
時あたかも、コロナ禍の在宅ワークでアルコール摂取が気になるという健康意識の高まりや、体に悪影響を及ぼす飲酒を低減しようとアルコール規制強化に乗り出す『WHO(世界保健機関)』の動き。さらには、酒は飲めるが、あえて飲まない選択をする「ソバーキュリアス(Sober Curious)」というライフスタイルが注目されているという現状。
そんな背景のもと出現した新カテゴリーが、アルコール度数1%未満の「微アルコール」市場です。先鞭をつけたのが、[アサヒ]の「BEERY(ビアリー)」(税込195円)というアルコール度数0.5%のビール(通常のビールは5%)。度数が1%未満のため酒税法上は“酒”にはならず、ビールテイストの“清涼飲料水”という扱い。製造方法は、麦芽に酵母を加えて発酵させるところまでは通常のビールと同じ。ビールはこの後ろ過しますが、「ビアリー」はビールとして完成したものを蒸留してアルコール濃度を限りなく低くする独自の蒸留技術で、本格的なビールのような味わいを実現しています。開発には、機械などの設備に5億円、約100回に及ぶ試験製造を重ね、3年半の歳月が費やされました。ある意味、むしろ品質も手間も通常ビール以上にコストが高くついているのかもしれません。
今年9月には、微アルハイボール缶「ハイボリー」も発売。度数0.5%(税込195円)と度数3%(税込199円)の2タイプがあります。
同社は、今後、一層の微アル商品の拡充を図り、2025年までには度数3.5%以下の商品構成比を20%(2019年比で3倍強)まで拡大する計画です。
[サッポロ]も9月、アルコール度数0.7%の「ザ・ドラフティ」(オープン価格)を発売して微アル市場に参入。こちらも、麦芽100%のビールに独自の調合とろ過を施すことで、微アルながら本格的ビールの味わいを両立。
“酒が飲める友人たちと一緒の時間と場を共有したい”という願い。これが、微アルの隠れた顧客ニーズです。酔っ払いたくはないけど、ほろ酔いでちょっと心地よくなりたい。ゼロはさびしいけど、5%もいらない。そんな時に存在感を発揮するのが微アルビールです。
これまで、通常のビールかノンアルかの二択しかなかったすき間に、新しい選択肢を“創造”した、まさにビール離れに挑む新提案。市場の空白地帯を突いたかのような微アルの登場でした。今後、爆発的なヒットとまではいかずとも、少しずつ確実に需要が伸びていくと思われます。
※参考:
アサヒビール https://www.asahibeer.co.jp/
厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/
サッポロビール https://www.sapporobeer.jp/
朝日新聞(2021年4月7日付)
酒類飲料日報(2021年7月14日付)