LDCレポート【10月号】
■“ビジネス”より“おうち時間”? 時代を映す「プロジェクター」の役割。
壁やスクリーンに映像を投影できる「プロジェクター」。もともと、会議などのビジネスユースが多かったアイテムですが、コロナ禍の影響で“ビジネスプロジェクター”需要が激減。その一方、巣ごもり効果で、写真や動画、ゲームなどが大画面で楽しめる家庭向け“ホームプロジェクター”の需要がにわかに勢いを増してきています。特に人気なのは、“シネマプロジェクター”と呼ばれる映像コンテンツの利用を想定して設計されたホームシアター的プロジェクターです。USBやHDMI端子などが付属しているほか、Wi-Fiを利用したワイヤレス接続にも対応。価格が20万円前後と高額な製品も多いですが、コロナ下で思うように使えなかった外出&買い物予算をこちらに振り替えるケースも。
設置する場所によって、テーブルなどの台の上に置く“据え置きタイプ”と、天井に設置する“天吊りタイプ”に大別されます。
売れ行き好調で、今やプロジェクター市場をけん引する存在になりつつあるのが、この天吊りタイプ。中でも、「ポップイン アラジン 2」(ポップイン/東京)は、天井のシーリングライトにプロジェクターとスピーカーを埋め込んで一体化させたユニークな製品。特別な配線工事は不要。本体内部に映像配信用の再生アプリを内蔵しており、スマホなどを経由することなく単体で配信映像が楽しめるのが人気の要因。価格は、9万9800円(税込)。
最近の傾向としては、バッグに入れて持ち運べるほどコンパクトな“モバイルプロジェクター”も人気。バッテリー内臓型でコンセント不要。アウトドアシーンで活躍します。最安クラスで3万円前後から。
市場的には、揺るぎない強さを誇る[セイコーエプソン]がトップ。続いて(順不同)、
[パナソニック][キャノン][リコー][ソニー]などの日本勢のほか、近年は韓国の[LG]、中国の[アンカー]、さらには[ベンキュー]や[オプトマ]といった台湾勢が安価で攻勢をかけています。
これまでは、限られた愛好家のアイテムというイメージが強かったホームプロジェクターでしたが、最近のある現象が、ハード面の技術革新を加速させたといわれています。それは、“定額制の動画配信サービス”の普及でした。この盛り上がりにタイミングを合わせて、Wi-Fi内蔵などの動画配信対応技術が進化。壁に向かって、話題の動画を大画面で映して非日常体験が手軽に味わえるアイテムとして広まっていったのです。
※参考:
ポップイン https://aladdin.popin.cc/
日経МJ(2021年5月7日付)
■“派手”から“簡素”へ。企業姿勢が「カオ=容器」に出ます。
私たち消費者が、初めてその企業と接する“カオ”、それが商品の「容器」です。飲料や化粧品などの容器は従来、ブランドロゴなどを目立たせて競合品との違いをアピールし、企業のイメージや商品コンセプトを消費者に伝える役割を担ってきました。しかし最近では、容器を含めた商品企画全体に、メーカーのモノづくりの姿勢が反映されているということに消費者は気付き始めており、いたずらに華美な容器を敬遠する傾向に。背景には、企業の社会的責任を問う世界の流れとサステナビリティー(持続可能性)重視の潮流、そして本質を見極める消費の成熟があります。
すでに日本企業の多くも、容器における循環型社会の実現に向けた取り組みを推進しています。
その一つが、ペットボトルのラベルレス化の動きで、プラごみの削減につながると同時に廃棄時にラベルを剥がす手間が省けるとユーザーにも好評。また、[資生堂]では木製家具メーカーとコラボし、家具の製造工程で発生した端材を再利用して容器に採用しています(商品名:BAUM)。[大日本印刷]や[凸版印刷]は、チューブの胴体部分を紙にした容器を開発。
2019年に「世界で最もサステナブルな企業100社」に選定されるなど、国内外で高い評価を受けている[花王]は、詰め替えパウチを、“詰め替えず”に吊り下げてそのまま容器本体として使うことができる「スマートホルダー」という画期的な容器を開発しました。
[無印良品]のペットボトル飲料が、今年の4月から、すべてアルミ缶に変更されています。“水平リサイクル(同じ素材に再生する)”率がペットボトルより高く、何度も繰り返しリサイクルできるアルミ缶を選択。遮光性が高く、中身が劣化しにくいため、ペットボトルで180日だった炭酸の賞味期限が270日まで延び、期限切れ商品を廃棄するフードロス削減にも一役かっています。
米国発の容器循環システム「LOOP(ループ)」を運営するのは、[テラサイクル]。仕組みは、提携する企業と共に繰り返し使える専用容器を開発、企業は商品をその容器に入れて店頭で販売。使い終わった容器はループが回収し、洗浄後、再び提携企業で中身を充てんして再販するというサイクルです。日本でも、ロッテやP&G、味の素、イオン、資生堂、コーセー、アース製薬など、数十社が参画しています。
地球環境への意識が一般の生活者レベルに浸透してきている今、企業に向けられる眼は、より厳しさを増してきています。メーカーには、企業姿勢を雄弁に語る「容器」を通して、消費者の価値観や生活習慣、社会の仕組みまでも変えていく使命が求められているのかもしれません。たかが「容器」、されど-----。
※参考:
資生堂 https://www.shiseido.co.jp/
大日本印刷 https://www.dnp.co.jp/
凸版印刷 https://www.toppan.co.jp/
花王 https://www.kao.com/jp/
無印良品(良品計画) https://www.muji.com/jp/
テラサイクルジャパン https://www.terracycle.com/ja-JP
日経МJ(2021年6月4日付/同6月11日付)
■余ったマネーの行き先は? 消費財への投機熱、高まる。
世界のウイスキー市場が熱く盛り上がっています。その目的は、“飲む”のではなく“投機”。2020年8月、香港で開かれたオークションで、[サントリー]の「山崎55年」が約8500万円で落札されたというニュースは世界中を駆け巡りました。2カ月前の2020年6月発売で、国内販売価格が330万円、100本限定(抽選販売)という希少性に注目が集まり、発売されるやすぐに投機の対象となり、28倍の値がついたことに。
また、2019年に英国のサザビーズでは、60年ものの「ザ・マッカラン」が約2億1750万円で落札。1926年に蒸留された後、60年間熟成されていた代物で、1986年に1本100万円で売られていたものに、33年後には約216倍の値がついたということになります。
ウイスキーが高額で取り引きされる理由が二つあります。その一つは、ウイスキーの原酒不足による価値の高騰です。「山崎55年」の場合、55年という長い年月寝かせた、いわば“酒齢”55年の希少な原酒のみを使用していることを名前が物語っています。人気が出たから量産しよう、というわけにはいかないのがウイスキー。寝かせた原酒の在庫がなければ、そのウイスキーをつくることができないため、生産量の少なかった年の製品が高値をつけるという市場原理によって、国産ウイスキーの価格高騰現象が起きています。
もう一つの理由は、2000年代に入ってから日本のウイスキーが世界で高い評価を受けていること。「2020年度 ワールド・ウイスキー・アワード」で「白洲25年」(サントリー)が栄冠に輝いたほか、「イチローズモルト」(ベンチャーウイスキー社/埼玉)や「キリン富士30年」など、数々の国際的コンペティションで日本のウイスキーが高評価を獲得。“スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアン”の四つの老舗ウイスキー産地に、近年、“ジャパニーズ”が加わり“世界五大ウイスキー”といわれるまでになって箔が付いたことも、価値の押し上げに大きく貢献しています。
そんな希少価値の高いウイスキーを積極的に買い付けているのが、中国や欧州、中東の富裕層。酒類の輸入・卸の老舗[ジャパンインポートシステム](東京)では、中国の企業と組み、世界の蒸留所にあるウイスキー樽の所有権をスマホで売買・管理するサービス、「ユニカスク」を今年から始めました。1樽当たりの価格は、数十万円~数億円。すでに欧州の投資家が、埼玉にある蒸留所の樽を数億円で購入したとのこと。
また、米国ではスニーカーが“投資商品”として人気を集めています。今春、歌手のカニエ・ウエストさんがデザインし、2008年のグラミー賞授賞式で履いていたスニーカーが、約1億9000万円で落札。
ほかにも、ワインやクラシックカー、絵画、腕時計といった実物資産の購入目的が、所有(趣味)から投資へとシフトしているのは世界的な傾向。
コロナ感染拡大からほぼ2年。各国政府による財政出動や金融緩和に伴い、空前のカネ余りを招き、あふれたマネーは株式や不動産といった“伝統的資産”にとどまらず、ウイスキーなどの身近な消費材に新たな投機機会を見つけて注ぎ込まれています。この、ブームともいえる“消費材投機”の流れは、まだしばらく続きそうです。
※参考:
サントリーホールディングス https://www.suntory.co.jp/
ジャパンインポートシステム https://www.jisys.co.jp/
大黒屋 https://kaitori.e-daikoku.com/
日経МJ(2021年6月4日付)