LDCレポート【8月号】
■爽やかに、快適に-----「マスク着用生活」に、思わぬ商機が。
日常の風景で、昨年から今年にかけて変わった点。それは、街行く人のほとんどがマスク姿だということです。『日経トレンディ』が発表した「2020年ヒット商品ベスト30」の2位に「マスク消費」が選ばれるほどで、市場規模は5000億円を軽く突破。約415億円だった2019年から、実に12倍の伸び。
それにしても、暑い時期を迎えてもマスクが手放せない日々が続き、着用時の不快感は募る一方です。マスク内に熱がこもるだけでなく、体内の熱を外に逃がしづらくなり、喉の渇きも感じにくくなって知らぬうちに脱水が進んで熱中症になったり、汗をかいてマスク内の湿度が上がっている状態でマスクを外すと、水分が一気に蒸発して肌の水分が奪われ、乾燥の原因となって肌荒れを招くことも。
メーカー各社は、工夫を凝らした対策用品を相次いで送り出しています。
着けたときにひんやり感じ、マスク内の蒸し暑さを軽減してくれる接触冷感素材を使用した“ひんやりマスク”が続々と登場。[ヨネックス]は、スポーツウエア開発の技術を生かし、冷感・吸汗・速乾・抗菌効果のあるマスクを開発・発売。[ユニクロ]も、サラリとした着心地で評判になった「エアリズム」の生地でマスクを製造して大ヒット。[マンダム]からは、マスクにスプレーするだけで不快なムレ感を抑える「マスク快適スプレー」(30ml/税込770円)が発売されました。 [アース製薬]からも同様のスプレータイプが発売。「アレルブロック マスク爽やかウイルス・菌 クリア&ガード 超冷感」(20ml/税込1188円)で、素早く乾いて冷感がより強く感じられる“超速乾処方”を採用。気になったときにすぐに使用できて効果が得られるのが特徴です。
マスク着用時の“口内ケア”にも商機が潜んでいました。
[ロッテ]は、マスク内のニオイが気になる人向けのガム「ACUO FOR MASK」を発売(税込200円前後)。これまでは、別の強い香りで不快臭を覆い隠していましたが、このガムでは、不快なニオイを取り込んで調和させることで不快臭を感じにくくさせる“ハーモナージュ技術”を同社で初めて採用。[明治]は、ボトルガム「キシリッシュ」のパッケージに“マスクの中に清涼感”というコピーを新たに明記。[アサヒグループ食品]は、“マスク着用時専用”と銘打った「ミンティア+MASK」を発売。カプセルが弾けることでミントの香りが鼻腔まで広がる独自設計が施されています。
コロナ禍で余儀なくされたマスク生活。もはや、普段着の一部、日常の定番アイテムとなっています。メーカー各社は、まだ当分の間、着用時の“不快感軽減”と“口内ニオイ解消”という新たな“コロナニーズ”の対策に力を注ぎ続けることになりそうです。
※参考:
ヨネックス https://www.yonex.co.jp/
ユニクロ https://www.uniqlo.com/
マンダム https://www.mandom.co.jp/アース製薬 https://www.earth.jp/
ロッテ https://www.lotte.co.jp/
明治 https://www.meiji.co.jp/
アサヒグループ食品 https://www.asahi-gf.co.jp/
日経トレンディ(2020年12月号)
繊維新聞(2020年12月24日付)
日経МJ(2021年4月2日付/同4月19日付)
■街に出る「eスポーツ」、老若交流で盛り上がり。
コンピューターゲームを使って、対戦形式で勝敗を決めるスポーツ競技「e(エレクトロニック)スポーツ」が、日本でも本格的な盛り上がりの兆しを見せています。
2000年頃に登場した「eスポーツ」。先行する米国・韓国・中国などではすでに“子供の遊び”から“スポーツ”としての認知が浸透し、一大市場を形成。それに付随したビジネスも拡大の一途を辿っています。
日本では、2018年に「日本eスポーツ連合」(JeSU)という振興団体が設立され、プロライセンスを発行して、職業としてのプロゲーマーの育成・認知に努めています。
とはいえ、eスポーツは、一部の選ばれたスーパースターだけのものではありませんし、興味のある人が皆、プロを目指しているわけでもありません。eスポーツのいいところは、年齢・性別・言語・障害の有無といった壁を越え、誰でも一緒に楽しむことができる点にあります。全国に草野球や草サッカーができる“場”があるように、いま、街なかにeスポーツを楽しむ“場”が着実に増えてきています。
JR松戸駅の改札口正面に、今年1月開設されたeスポーツ施設が「ジェクサー・eスポーツステーション」(JR東日本スポーツ)。「びゅうプラザ」跡のスペースを利用したもので、ゲーミングパソコン20台に約30タイトルのゲームを揃えています。
国内最大級の広さをうたった「REDEE(レディー)」(レッドホースコーポレーション/大阪)は、eスポーツビギナーにも開放された施設で、PCや椅子などはプロが使うゲーミング仕様。40m×8mの巨大スクリーンを備えた専用アリーナもあり、自宅では味わうことが難しいプロゲーマーの気分が楽しめます。
国内初となるeスポーツ特化型のホテルも出現しました。昨夏、大阪にオープンした「esports hotel e-ZONe 電脳空間」で、全9フロアに72席のPCブース、95ベッドを備え、利用者が仮眠をとりながら好きなだけゲームに打ち込むことができる環境を提供。宿泊料金は、個室タイプで1室6000円から。
最近は、eスポーツの別の側面からの効用が注目されています。
eスポーツで求められる、処理速度や複数の作業を同時に行う能力などが、高齢者の脳の活性化を促し、衰えた認知能力の改善に寄与することが明らかになってきたことから、eスポーツをシニア世代に活用する試みが全国的に広まっています。
昨年誕生した「ISR e-Sports」(ISRパーソネル/神戸)は、60歳以上限定の会員制eスポーツ体験施設です。6台のゲーミングPCを設置。体調などに配慮し、一回の利用時間を120分に制限(プレー時間90分+談笑タイム30分)。入会費は無料、利用料は一回1000円。
小学生の「子供が憧れる職業アンケート」(2019年)で「プロゲーマー」が2位にランキングされ、2022年の「第19回アジア競技大会」(中国)では正式種目として採用が決まり、2024年のパリ五輪の新種目候補にもノミネート。国内では2019年の「茨城国体」の文化プログラムに選ばれるなど、“競技スポーツ”としての認知が国内外で高まっています。2018年に約44億円だったeスポーツの国内市場は、2022年までには倍増すると見られており(JeSU)、ビジネスとしての裾野も着実に広がっています。
※参考:
一般社団法人 日本eスポーツ連合 https://jesu.or.jp/
ジェクサー・eスポーツステーション https://www.jexer.jp/e-sports/
REDEE https://redee.game/
esports hotel e-ZONe 電脳空間 http://e-zone.site/
ISR e-Sports http://isr-group.co.jp/
日経МJ(2021年4月21日付)
■コロナ下の食卓で存在感高まる、「冷凍食品」の底力。
長引くコロナ禍による“巣ごもり生活”が、「冷凍食品(以下、冷食)」市場に地殻変動を引き起こしました。
コロナ前の2019年まで、冷食の出荷額は、飲食店・学校給食などの業務用が家庭用を上回っているのが常でした。ところが2020年になると、在宅勤務の増加や外食自粛、学校の休校などの影響で業務用は大苦戦。前年比14%減と落ち込み、その一方で家庭用冷食市場が前年比19%増と大きく伸長。初めて、家庭用が業務用を上回ったのです。
関連各社は、すぐさま立て直しに着手。業務用の落ち込み分をカバーしようと、家庭用冷食の商品開発を加速。新たな付加価値を加味した商品を投入して家庭用需要の取り込みを図ります。
[マルハニチロ]の家庭用冷食「WILDish(ワイルディッシュ)」シリーズ(税込210円前後)は、“この袋が皿になる!”をコンセプトに、袋ごとチンして、袋を皿代わりにそのまま食べられる新開発のパッケージを採用。ご飯系と麺類、計8種類がラインアップ。
カット野菜と肉や魚介、タレがひと袋に入った冷凍おかずセット「ララ・キット」シリーズを発売したのは[三菱食品]。解凍不要で、冷凍のままフライパンで10分。二人用が767円、一人用が437円(共に、税込)。
横浜に異色の専門店が出現して話題となっています。冷凍機器製造販売の[テクニカン]が運営する、冷食だけを扱う専門店「トーミン・フローズン」です。生鮮をはじめチーズやベーコン、スイーツ、麺類、握り寿司など、その数約500種類を陳列。全てが、同社オリジナルの急速凍結機「凍眠(とうみん)」で凍らせた商品。食材をマイナス30度のアルコール液で急速冷凍(一般的な冷凍速度の約20倍)することで細胞へのダメージを抑え、風味や食感が損なわれるのを防ぎます。生に近いおいしさを保ったまま長期保管が可能なため、流通上のメリットも。同社は、食品卸大手の[伊藤忠食品]と業務提携し、「凍眠市場」という冷食ブランドも展開しています。
好調な家庭用冷食市場には新規参入も目立ちます。外食店がテイクアウトの延長として自社ブランドの冷食を立ち上げ、次なる基幹事業に育てようという動きです。例えば、[ロイヤルホールディングス]のお持ち帰り冷食「ロイヤルデリ」シリーズは、コロナ下で順調な伸びを見せています。
流通業界では長い間、冷食は生鮮食品のサブ的な役割で、特売の目玉商品として扱われることも少なくありませんでした。しかし、製造技術の革新や消費者のライフスタイルの変化に対応した商品開発によって味や品質が大きく向上し、今や評価はうなぎ登り。今後、食卓での存在感をさらに高めるには、単に保存性や簡便性の高さにとどまることなく、冷食だからこそのおいしさや利便性の追求が、なお一層求められそうです。
※参考:
一般社団法人 日本冷凍食品協会 https://www.reishokukyo.or.jp/
マルハニチロ https://www.maruha-nichiro.co.jp/
三菱食品 https://www.mitsubishi-shokuhin.com/
テクニカン https://www.technican.co.jp/
伊藤忠食品 https://www.itochu-shokuhin.com/
ロイヤルホールディングス https://www.royal-holdings.co.jp/
日本食糧新聞(2020年11月30日付)
食品産業新聞(2020年12月7日付)
冷凍日報(2021年2月12日付)
日経МJ(2021年4月2日付)
冷凍食品新聞(2021年5月第4週号)