LDCレポート【5月号】
■5G元年。まずは、スポーツで感動を体感。
いよいよ今年の春から商用化が始まった、次世代通信規格「5G(ファイブジー)」。なかでも、“高速・大容量・低遅延・同時多接続”といった特徴を活かした5Gのテクノロジーとスポーツを融合させた“スポーツテック”が、普及への突破口となりそうです。
5Gの特性は、観戦の楽しみ方を大きく変える可能性を秘めています。
その代表的な一つが、“マルチアングル(自由視点映像)”。通常のテレビ放送の試合で映し出されるシーンは一種類しかありませんが、5Gなら、視聴者一人ひとりがカメラアングルを自由に切り替えて、見たい映像を選ぶことができるようになります。つまり、一塁側の席に座っていても、手元の5Gタブレットで三塁側からの映像を見ることができるということ。回転、拡大、縮小は自在。自分の好きな“推しメン”選手ばかりを選択してひたすら追いかけることも可能に(選手追尾映像)。最大の売りは、録画映像ではなく、リアルタイムの映像である点です。
例えば[ソフトバンク]の配信サービス、バスケ観戦アプリ「バスケットLIVE」では、選手専用カメラに切り替え可能なサービスを搭載。コートを囲むように設置された30台のカメラによる映像を、5Gの高速通信によって合成、処理することでマルチアングルを実現。
[KDDI]は、16台の4Kカメラを配置してボルダリングの大会を自由視点中継。視聴者が、スマホやタブレットの画面を指でなぞればカメラがスイッチングされ、アングルが上下左右に切り替わる“タイムスライス自由視点方式”を採用。また同社は、[横浜DeNAベイスターズ]と組んで、横浜スタジアムでVR(仮想現実)と組み合わせた野球観戦サービスを始めます。選手たちが目の前で試合をしているかのような体験が味わえます。
このような、複数のカメラの映像からなる自由視点映像のデータは、大容量となるため現行の4Gでのリアルタイム配信は難しく、かつ多くの端末への配信もネットワークへの負荷が大きく、4Gではまかないきれない、5Gならではの恩恵です。
そのほか、[NTTドコモ]では、[日本プロゴルフ協会]と連携して、5Gを活用した遠隔レッスンを始めました(2019年12月から)。受講者の練習フォームを5Gスマホのカメラで撮影し、AIが自動で解析。その結果を参照しながらプロゴルファーが遠隔によるレッスンを提供するというもの。
スポーツの視聴は、“テレビ”から“配信”へ-----テレビの発明以来の発明かもしれない、と評される5Gの革新的な可能性を、身をもって体感できる日が訪れたようです。
※参考:
ソフトバンク https://www.softbank.jp/
KDDI(au) https://www.au.com/
NTTドコモ https://www.nttdocomo.co.jp/
日本プロゴルフ協会 http://pgagolfacademy.jp/
朝日新聞(2020年1月9日付)
日経МJ(2020年1月10日付)
■狙いは、訪日客より日本人。夜遊びのススメ、「ナイトタイムエコノミー」。
訪日外国人の数が増えている割に、観光・娯楽に消費される1人当たりの額が伸び悩んでいます。この状況を打破すべく、官民一体となって取り組んでいるのが、夜(20時~翌3時頃)の観光による経済活動「ナイトタイムエコノミー」(以下、ナイトエコノミー)。訪日客の興味を引くような観光コンテンツの充実を図り、財布のヒモを緩めてもらおうという“夜遊び振興”策です。
ナイトエコノミーの“先輩”ロンドンでは、“パープルフラッグ”という認定制度を導入。治安・騒音・ゴミ問題の改善や泥酔者対策など7項目の厳しい条件をクリアした地区だけに、安心して夜遊びできる街とお墨付きを与えています。国を挙げてナイトエコノミーを推し進めた結果、ロンドンの夜の経済規模は4兆円にまで拡大。
また最近、世界各国の観光都市で注目されているのが、「ナイトメイヤー(夜の市長)」というポストの存在です。行政、民間事業者、地域住民との間に立ち、昼間にはない様々なトラブルに対処しながらナイトエコノミーの活性化を専従で担う“夜の責任者”です。
日本では、2016年に風営法が改正され、朝までの営業が可能となりました。同年、東京の渋谷区で、夜の観光大使「ナイト・アンバサダー」制度が導入。また、東京・豊島区では、演劇やコンサートを楽しんだ後の時間も、安全にその余韻を味わえる場にしていくことを目指す「アフター・ザ・シアター」構想を掲げています。
各種遊戯施設などが、営業時間の延長や遅い時間の開演などで夜間営業に対処しているほか、ロボットレストランや新宿ゴールデン街など、ナイトエコノミーのニューウェーブもインバウンドのコト消費に一役買って好評。
しかし、こうした様々な努力・工夫を行っているにもかかわらず、今一つ日本のナイトエコノミーが盛り上がりに欠けるのは何故でしょう?
それは、日本人が、夜、遊ばないから----。
ナイトエコノミーの主役は住民、つまり日本人の私たちです。私たちのライフスタイルのなかに、街へ出かけるというナイトライフがベースにあってこそ、訪日客へのナイトエコノミーが成り立つのです。魅力あるコンテンツの提供も大切ですが、それ以前にまず、日本人自身がナイトライフを楽しむことが肝心。ホストが楽しんでいないのに、ゲストが楽しむことはできません。
働き方改革によって就業後の余暇時間が増えている今。インバウンドだけでなく、私たち日本人も巻き込んでのナイトエコノミーを。それが、80兆円ともいわれるナイトタイムの巨大市場を手中に収める近道のようです。
※参考:
観光庁 https://www.mlit.go.jp/kankocho/
日本経済新聞電子版(2019年10月2日付) 日経МJ(2020年1月24日付)
■低迷する宝飾市場の起爆剤に。輝き増す、「合成ダイヤモンド」。
“宝石の王”として君臨する「ダイヤモンド」。このところ、業界を騒がせているのが「合成ダイヤモンド(人工ダイヤ、人造ダイヤ)」の存在です。その成り立ちから、「Lab-grown (ラボグロウン)Diamond」、“研究室で育てられたダイヤ”ともいわれています。
炭素を化学的に結合して作られた合成ダイヤは、成分も結晶構造も輝きも天然ダイヤと同じです。何十億年という年月をかけて地球の奥深くで生成されるのもダイヤなら、ラボでわずか数週間の間に“製造”されるのもダイヤ。見た目や輝きは、一般の人にはもちろん、鑑定士でも肉眼で見分けがつきません(特別な識別装置で鑑定)。
合成ダイヤの最大の魅力は、その手頃な価格。相場にもよりますが、天然ダイヤの半額程度といわれています。ちなみに、合成ダイヤ1カラットにかかる製造コストは、2008年に4000ドル(約44万円)だったのが、2018年には十分の一の400ドル(約4万円)程度に下がっています。なにしろ工業製品のため、技術開発や需要増によってコストはどんどん下がり、それに伴い小売り価格も下がる傾向にあります。
かつて天然ダイヤには、紛争の資金源としての不正取引や、採掘による環境破壊、過酷な労働条件などが問題視されるなど、何かとネガティブな話題が付きまとっていたのも事実。
合成ダイヤは、そんな市場を背景に登場しました。紛争とも環境破壊とも無縁の観点から、エシカル志向(環境や社会に配慮するライフスタイル)の海外セレブや、これまでの世代とは異なる価値観を持つ“ミレニアル世代”(20~40歳前後)の間で支持する動きが急速に広まっていきました。
ダイヤ鉱山世界最大手の[デ・ビアス]をはじめ、天然ダイヤを取り扱う業者にとって合成ダイヤの市場進出は脅威。当然、デ・ビアスも合成ダイヤに否定的と思われていましたが、2018年、デ・ビアスが合成ダイヤ市場に参入。“あの、デ・ビアスが!?”と世界中の宝飾業界に激震が走りました。この影響で、一躍合成ダイヤはメジャーとなり、一気に市場が拡大しました。
日本でも2018年、京都の老舗宝飾店[今与(いまよ)]が日本発の合成ダイヤ「SINCA(シンカ)」を立ち上げ、昨秋には東京・銀座に初の合成ダイヤ専門店をオープンしました。
“希少性”という、宝石としての最大の価値をあらかじめ持ち得ていない合成ダイヤ。しかし、天然物と同じ輝きなら、高価な宝石を所有するより、自分の気分に合ったモノに価値を見いだすのが近頃の生活者の消費マインド。天然マグロも養殖マグロも、どちらも“マグロ”ということでしょうか。
宝飾品の国内市場規模がピーク時の三分の一に低迷している状況のなか、消費者にとっても、また小売店にとっても、新世代のダイヤモンド「合成ダイヤ」が新たな選択肢となることは間違いなさそうです。
※参考:
一般社団法人 日本ジュエリー協会 https://jja.ne.jp/
デ・ビアス https://www.debeers.co.jp/
今与 http://imayo.jp/
日本経済新聞電子版(2019年11月1日付)
日経МJ(2020年1月31日付)